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CROSS POINT 第3話

ちょっと不思議な体験がきっかけで書く事になった、フリーペーパー TARUPON◆FREEのコラム「冒頭から暴投」の番外編です。
数回に渡り、上段にノンフィクション、下段にそれと同時に進むフィクションの物語を重ねるという妙なスタイルでの連載となります。ご了承ください。

最新話はフリーペーパー TARUPON◆FREE vol.163(2018年3月号)に掲載しています。

Nonfiction

 僕のレジの順番が来たので、さすがにそれ以上店を出ようとする大柄で個性的なファッションの「立ち読みの人」を目で追う事はしなかった。気になったといっても、結局その程度。僕の頭の中から彼の存在は一瞬で消えて、自分の会計の事に意識は向く。まぁ、当然だよね。
 財布を出し、支払いを済ませた僕も、程なくお店を出るべくドアを押し開け・・・と思ったら、先ほどの「立ち読みの人」が、再度店内に戻って来た。彼とすれ違いながら、僕の意識の中にも再び彼の存在が戻って来た。「立ち読みの人、何か買い忘れたのかな?もしくはトイレ?忘れ物・・・トイレ・・・ん??あっ!」。僕は、彼のおかげで、トイレの中に傘を置き忘れた事を思い出した。比較的大きめで頑丈な作りのその傘の事を結構気に入っていた僕は、店のドアを押し開けるのを途中でやめ、慌てて店内に戻って、トイレの方へ向かった。
 すると、ちょうど目の前で彼がトイレに入って行く姿が見えた。
 「あ、やっぱトイレか・・・僕の傘に気づくかな・・・持って出て来たらどうしよう・・・面倒だな・・・」。僕は作戦を練った。
 傘を持たずに彼がトイレから出て来たら、間髪入れずトイレに入り、傘を回収。万が一、彼が、傘を持って出て来たら「すみませーん、ありがとうございます!さっき中に傘を忘れてしまって、ありがとうございます!助かりますぅ!」と笑顔でまくし立てれば、彼もすんなり傘を渡してくれるだろう。よし、このどちらかでうまく行くはず・・・などと考え、トイレの横の雑誌コーナーで本の表紙やスマホを眺める振りをしながら、彼が出てくるの待った。扉が空いた瞬間が勝負だからね。出て来た彼の手に傘があるかどうか、見逃すわけには行かない。それを確認したら作戦決行だ。


fiction

 「雨上がりか?まだ少し降ってる?ちょっと寒いな」
 「私たちの世界」からこの時代に来る時に、さすがに天気予報はあてにならない。幸いにも、年号としての開きは100年あるが、偶然なのだろうか、季節感はほぼ同じ。ただ、この時期は日によって気温差が激しいし、ひと雨ごとに寒さが増す季節でもある。今日は、少し薄着だったようだ。そして傘も無い。
 本来なら資料を入手し、そのまま「私たちの世界」に帰る予定だったのだが、少しどこかで時間を潰さなくてはならない事情があった。でも、その前に、まずトイレに行きたくなってしまった。きっと冷たい風に当たってしまったからだろう。私は、再度、店の中に戻った。
 店の扉を開けると、ひとりの客とすれ違った。店内を見回すと、二人の店員の他にもう客は居なかった。
 結果オーライ。どっかで時間を潰す手間が省けたかもしれない。でもまずはトイレだ。
 私は、トイレの扉を開け、奥にある洋式トイレの方に入った。以前、小専用の方に入ろうとしたら、あまりにも狭く、私の体格だと、身動きすらとれなくなりそうだったので、ここのトイレは奥側の個室を使うことに決めている。その方が色々好都合なんだ。
 私は便座に座り、用を足しながら、先ほど購入した雑誌を一冊取り出して、パラパラとページをめくった。不倫、汚職、裏金、不祥事、スキャンダラスな内容のものばかりが目に止まるが、そこに登場する人物や時代背景に対する知識が全くないと、こうも興味を惹かないものなのか。資料にはなるかもしれないが、内容はつまらないものだった。
 本を閉じて、袋に戻そうとした時、何かを見た気がした。脳裏に電流が走った感覚、眉間がむず痒い、鼓動が高まる。改めて、その雑誌の表紙を恐る恐る見直すと、そこには、見覚えのある人の名前があった。間違い無い。私はこの人を知っている。

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